AI小説

雑居物語

バツイチ女と大学生の奇妙な同居生活

第一章 43歳と20歳。ダブルブッキングから始まるシェア生活


引っ越しのダンボールに「台所」「本」「思い出」と油性ペンで書きながら、私は新しい鍵を手のひらでころがした。

カズ子、四十三歳。

旦那とは協議離婚中。

今日から別居一日目。

新しい住居は築15年目の賃貸マンション。

駅近、商店街まで徒歩10分、南向きの2LDK。

引っ越しの私のトラックとは別に、もう一台の別のトラックも、同じ入口へ入ってきた。

(同じマンションに、同じ日の同じ時間に引っ越しって……めずらしいわね)

2社の引越し会社が鉢合わせになり、エレベーター前は渋滞になった。

キャップを被った背の高い青年が、私の段ボールとまったく同じサイズの箱を抱えている。

多分彼が、今日このマンションに引っ越してきた新しい住人だろう。

二十歳ぐらい、肩の力が抜けた、ガツガツしない、今どきの男の子――それが彼の第一印象だった。

「こんにちは。私も今日ここに引っ越してきたんです。あなたは何階ですか?」

「えっと、5階の五〇二です」

「……え?私も五〇二なんだけど」

私と彼、引っ越し業者さんたち同士が顔を見合わせる。

「どういうこと?」

「ぼくの契約した部屋はまちがいなく五〇二です」

「いや、わたしもよ」

ふたりそれぞれの契約書を見直した。

ふたりとも間違いなく五〇二号室で契約していた。

不動産屋さんに電話をかけると、10分もしないうちに、担当だった営業さんが飛んできた。

「これはどういうことですか?」

「説明してください」

「は、はい。す、すみません!ダブルブッキングというやつです!!」

「ダブルブッキング!?」

「同じ部屋を、二人のお客様と同時に契約してしまいました」

「はぁ?」

一体どうしたらそんな間違いがおこるのか?

理由はこうだった。

「隣の五〇一号室も空き部屋になるんです。ただそれが1ヶ月後で……。それを2部屋とも今月で空くと勘違いしていました」

しかしもう引っ越しで荷物を部屋の前まで運んできてしまった。

今更引き返すことなんてできない。

「とにかく会社に連絡して、今日中に新しい部屋を手配してください!」

私がそういうと、営業さんは突然土下座した。

「それだけは勘弁してください!実はぼくは失敗続きで。今度ミスしたらクビなんです。どうか会社にだけは秘密にしてください」

大の男に涙ながらにそう言われ、私はそれ以上彼を責めることができなかった。

もう一人の住人となる彼も呆然と立ち尽くしていた。

しかしそうは言っても、部屋は一つ、いったいどうすれば……

「幸いと言いますか、お部屋は2LDKです。その……隣の部屋が空くまでの“1ヶ月間だけ”お二人でルームシェアしていただけないでしょうか」

「今日会ったばかりの男と女が、ルームシェアですって?」

思わず声が上ずる。

「男と女といってもですね、歳が親子ほど……あ、いえ、なんでもありません!」

「はぁ?いま親子って言いました?」

「いえいえいえ、言ってないです💦

あの、今月は家賃は全額サービス、電気ガス水道もお支払いします。ですのでどうか会社にだけは……」

営業さんは再び土下座して頼み込んだ。

正直、困った。

けれど、私は四十三年の人生で学んだ。

困っている人を追い込むのは気分がよくないし、助けてあげた方が結局得になることが多い。

「一ヶ月……。隣の部屋が1ヶ月後に空くのは間違いないんですね」

私はもう一度確認した。

「は、はい。それは間違いなく」

私はこのマンションに住みたかった。

「家賃がタダなら1ヶ月ぐらい辛抱してもいいわ」

私は了承した。

男の子のほうもしょうがなく頷いた。

「ありがとうございます。おかげでクビにならずにすみます!」

こうして、私たちは1ヶ月間だけという約束で、ルームシェアすることになった。

同居人の名前は浩二君。

見た目は今時の大学生。

真面目そうで感じがいい子だ。

ダイニングとキッチンを共用、東側の部屋を私が、西側を浩二君が使うことになった。

それ以外にも共同生活のルールを決めた。

連絡事項はリビングに置いたホワイトボードに書く。

帰宅時間、来客は事前申請。

そして夜十時以降は静音モード。

そして大事なことがあった。

「浩二くん、あなた彼女はいるの?」

「ええ、いますよ。少し広めの部屋を借りたのは、彼女が泊まりにきやすいようにです」

「なるほど。じゃあ彼女さんが泊まりに来る日は、必ず前日に知らせてね。私は外すか、静かにしてるか、考えるわ」

「お願いします。カズ子さんの方は彼氏は?」

痛い質問だった。

もっとも恋人に関しては私の方から聞いたのだからしょうがない。

「いないわ」

「セフレもですか?」

「いません!」

そこは強く否定した。

こうして、奇妙な歳の差“同居”が始まった。

期限は一ヶ月。

たぶん、長いようで、短い。

第二章 元夫の襲来、そして年下女子に「お母さん」と呼ばれた日

翌朝。

共同生活初日の緊張か、目覚ましの前に目が覚めた。

私がコーヒーを淹れていると、寝癖のままの浩二君が起きてきた。

食事に関しては朝と夕食は私が作ってあげることになっていた。

ただし、もちろん食費は折半。

「これも不動産屋さんに払わせればよかったかな」

そうつぶやいた。

彼は笑いながら

「朝起きたらおかみさんが朝食を作ってくれている。なんか学生寮みたいですね」

と言った。

「おかみさん」と言う言葉が少し気になったが、悪気はなさそうなのでスルーした。

年の差23歳。

私も彼の軽口に少し笑ってしまった。

朝食を終えたとき、玄関チャイムが鳴った。

ドアスコープをのぞくと、そこに立っていたのは元夫のタケシだった。

私は深呼吸してからドアを開けた。

「不動産屋さんに住所を聞いてきた。カズ子、話がしたい」

「朝から直球ね」

彼は相変わらず不器用だ。

そこへタイミング悪く、洗面所から浩二君が顔を出した。

「すみません、タオルどこ置きましたっけ、カズ子さ……」

浩二君を見て、タケシの顔色が一瞬で変わった。

「男がいたのか……もしやと思っていたが」

「ちがう、説明するから落ち着いて。彼はただの同居人。不動産屋さんのミスで――」

「言い訳はいらない。離婚したい理由がセックスレスだって言ってたよな。だったら……毎晩する。だから帰ってきてくれと言おうと思ってきたんだが」

“毎晩する”という艶かしい単語が妙におかしかったが、笑う雰囲気ではなかった。

「君はいくつだ」

「二十です」

「カズ子、セックスに飢えていたとは言え、いくらなんでも歳が離れすぎてるだろ」

浩二君は首を振る。

「誤解です。ぼくはちゃんと1つだけ年上の彼女がいます。こんなことになってしまいましたが」

「こんなことって何よ?」

私は素で突っ込んだ。

「1つだけ」の「だけ」というのも気になっていたが、そこまで言うと細かすぎるのでスルーした。

私たちはことの顛末を説明した。

「とにかく期間限定の共同生活なの」

ようやく武史はわかってくれた。

が、この共同生活をあまり良く思ってないことは、その表情から明らかだった。

「とりあえず今から俺は出勤だ。また出直してくる」

そう言って出ていった。

武史が出ていくと、5分もしないうちにまたチャイムがなった。

開けると、ぱっと華やかな女の子が立っていた。

長くて綺麗で艶のあるストレートな髪、小さく顔に、大きくてまあるい眼鏡をかけている。

彼女はにこっと笑って、頭を下げた。

「はじめまして。浩二くんのお母さんですか?」

「違うわ。同居人よ」

「え、同居人?」

彼女の笑顔が、一瞬で切り替わった。

「どういうこと、浩二君。あなた年上が好きって言ってたけど限度があるわよ」

またしても勘違いだ。

しかしまあ無理も無い。

不動産屋の手違いで、1ヶ月も見知らぬ男女が同居するなんてあり得ない。

「不動産屋のミスで一ヶ月だけ。来月にはどちらかが隣に引っ越すんだ」

浩二君は説明したが、

「じゃあしょうがないね」

といいながらも、彼女も納得してないみたいだ。

そんなことなら「お母さん」ということにしておけば良かったかなと思った。

第三章 壁一枚の攻防戦。深夜の誤解と「見てはいけないビデオ」

「43歳でもイケる?」風呂上がりの挑発と若者の拒絶


ギクシャクしがなら共同生活が始まった。

ジャンケンでこの日は私が先にお風呂に入る日になった。

お風呂上がり、濡れた髪からしずくがしたたる。

四十三歳。

鏡の中の私を見て、まだまだイケると思った。

思っただけで止めておけばいいのだが、それを確認したくなった。

部屋着のTシャツとホットパンツ。

Tシャツの下には、もちろん下着なんか着けていない。

リビングへ戻ると、テレビを見ていた浩二君の、視線だけがこちらに動いたのを見逃さなかった。

濡れた髪にドライヤーをかけながら

「どう?43歳でもまだまだイケるでしょ」

私がそう言うと、彼は少しムッとした感じで

「からかわないでください」

と言った。

ここで引けば良かったのに、続けてしまうのが私の悪い癖だ

「彼女、可愛い子ね。お泊まりできるように広い部屋にしたって言ってたけど、もう済ませたの?それともまだ?」

返事がない。

「もしまだだったら私が初めてをお相手してあげてもいいわよ」

そういうと、浩二君はムッとした表情で

「とっくにもう済ませてますよ。この部屋は壁が厚いから声を気にしなくてもいい。ラブホに行くことを思ったら安いかなって思って借りたんです」

若者らしい、ストレートな返しだった。

「やっぱり今時の子は早いわね。私たち昭和生まれは20歳でもまだの子、たくさんいたわ」

私がそう言うと

「じゃあカズ子さんは初体験は何歳だったんですか?」

「あはははは、もっとも私は14歳だったけどね」

「早っ」

さすがに少し驚かれた。

「彼女お泊まり呼んだらいいわよ。その時は私は静かにしてるから」

「いくら静かにされても、となりにお母さんみたいな……いや、人がいたら気が散ります。

彼女も“同居の女”がいるのは嫌みたいで。引越しでお金使ったからラブホに行くお金もない。

おかげで欲求不満が溜まってます」

彼は少し早口で言った。

「だからそんなに溜まっているなら、私がお相手しようか?」

また口が滑った。言ってからしまったと思った。

「結構です!ぼく、セフレとかを作るタイプじゃないんで」

そう言って彼は自分の部屋に戻っていった。

悪いこと言ったなと反省した。

壁越しの吐息。開けてはいけないドアの悲劇

その夜。

壁の向こうから、妙な息遣いが聞こえてきた。

最初はテレビの音かと思ったが、浩二君のものだった。

その息遣いはだんだん荒く、そして早くなる。

私は枕を抱え、天井を見つめた。

(溜まっているって言ってたし……。若いんだし、まあしょうがないか)

そして私は、三十年前の出来事を思い出した。

私がまだ中1だった頃、兄の部屋に「おやつだよー」とノックもせずに入っていった。

その時兄は一人で……あの光景は30年経った今も忘れられない

そのあとえらく怒られた。

そして何ヶ月も口を聞いてもらえなかった。

あれ以来、男の人の部屋に入る時は必ずノックしてからと心に決めていた。

しかし壁越しに、少しだけ浩二君の声が漏れ聞こえた。

「……カズコちゃん」

耳が過敏に反応した。

え、私の名前?

今たしかに私の名前を呼んだ。

(ちょ、ちょっと待って。私を、オカズに?)

いくら何でも私をオカズはダメでしょ。

私は飛び起き、ノックもせずに彼の部屋のドアを開けた。

「ちょっと、浩二君!!私をおかずにしないで!」

彼は驚いて振り返った。

その手が止まり、タブレットの画面が見えた。

それは大人の動画サイトだった。

そして再生されている動画には、タイトルと女優名が表示されていた。

《新作:カズコ、初めての夜――》

よりによって同じ名前の女優のビデオ……

「う、うわっ、見ないでください!!」

「ご、ごめんなさい!」

私は慌ててドアを閉めた。

閉めた後で、全身がカァッと熱くなる。

三十年前の記憶が蘇った。

中一のとき兄にした同じ失敗を、歳の差23歳の共同生活でもう一度やるなんて。

私は自己嫌悪で布団にもぐりこんだ。

第四章 一線を超えた夜。そして奇妙な四角関係の結末

「責任とってよ」30年前のトラウマと、赤面する熟女

翌朝になっても、昨日の光景は頭から離れなかった。

朝食中も気まずい空気が流れる

私は耐えきれず、自分から切り出した。

「昨夜はごめんなさい」

私は深々と頭を下げた。

「人にオナニーを見られたの、中学生のとき母親に見つかって以来です」

彼も初めてじゃなかった。

これって男の子あるあるなんだろうか?

「私も三十年前、中一のときに兄のそれを目撃して、逆ギレされたことがあるの」

「いや、それ逆ギレじゃなくて当然です」

「だよねぇ……」

私は何も言い返せなかった。

「――責任、取ってください」

唐突に、真っ直ぐな目で言われた。

「責任?」

「彼女が泊まりに来られない。オナニーも邪魔された。二十歳の男にとっては深刻です」

「うっ……」

言い返せなかった。

兄の時は本当に何ヶ月も口を聞いてもらえなかった。

「わかったわ。昨日はからかうみたいに言っちゃったけど、ちゃんと責任は取るわ。今夜“私がお相手”する。一度だけだけど、それで許して――」

私も年甲斐もなく顔を真っ赤にして、少し照れながら言った。

しかし

「ちょ、ちょ、ちょっと待ってください!なにを誤解してるんですか!」

浩二君は大きな声で否定した。

「明日、彼女が泊まりに来るんです。だから“明日は部屋から出ないでください”ってお願いしてるんです!」

「えっ……あ、あぁ、そう……そういう意味だったの!?」

なに、この熟女の空回り。

私は耳まで真っ赤になり、膝から力が抜けた。

よけいに変な空気が流れた。

眠れない夜。壁の向こうの情事と、疼く43歳

次の日の夜。

隣の部屋では若いカップルが夜を過ごしている。

私はベッドに横になり、息を殺して天井を見上げていた。時計の針は二十三時。

私がもともと離婚しようと思ったのは旦那タケシとのセックスレスが理由。

女としてこのまま枯れていくのが嫌で離婚を申し出た。

そして新しい生活を踏み出したはずなのに。

でもこの2週間、新しいパートナーを探そうとは思わなかった。

引っ越し作業などでバタバタと忙しかったというのもあるが、あの若い男の子との同居生活が、ちょっと刺激的で楽しかったからだ。

親子ほど歳の離れた私たち。

しかも彼には若くて可愛い恋人がいる。

最初からあり得ないことはわかっていたのに。

壁一枚隔てた隣の部屋から、彼らの声が聞こえてくると、私の体まで熱くなった。

溜まっているのは彼らだけじゃない、私だって。

二人が静かになり、眠りについてもまだ、私は眠れなかった。

対抗心? それとも……。元夫への「深夜の招待状」

翌朝。

「おはよう、昨日はお疲れ様」

嫌味にならないよう、私は勤めて明るく、笑顔で二人に挨拶した。

三人での朝食。

私は寝不足で目の下にクマができていないか心配だった。

「また泊まりに来てもいいですか?」

愛子ちゃんが言った。

「ええ、いいわよ。ここは私だけの部屋じゃない、浩二君の部屋でもあるんだから」

「よかったあ。じゃあ今夜、バイトが終わったらまた泊まりにきますね」

え、それじゃまた今夜も眠れない夜になるのか。

いや、それはまだいい。

これ以上は私の心が壊れてしまうかもしれない。

「あ、じゃあ今夜、私も呼んでいいかな」

「え?和子さん、今はパートナーいないって言ってませんでした?」

「こう見えても大人の女よ。そんなの何とでもなるのよ」

そうは言ったが、本当にすぐにどうなるものでもなかった。

ワンナイトラブなんて経験ない。

ましてやいきなり自宅に呼べるような男性なんているはずない。

でも

(あ、ひとりいた)

タケシのことを思い出した。

こうなると頼れるのは元旦那、いや、まだ離婚してないから一応旦那だ。

私は深呼吸して、一行だけのメッセージを送信した。

《今夜、泊まりに来ない?》

きっとあの人は来てくれる。

そう思った。

既読スルーの夜に。23歳年下男子との「過ちと選択」

そしてこの日の夜。

しかしチャイムは一度も鳴らなかった。

タケシに送ったLINEは夜になっても既読がつかなかった。

タケシだけじゃない。

愛子ちゃんも来なかった。

代わりにノック無しで、いきなり私の部屋のドアが開いた。

浩二君だった。

「もう、びっくりするじゃない!」

「いつかの仕返し、ということで」

「私はオナニーしてません」

「それは良かった(笑)」

彼は部屋に入ってきて、いきなりベッドの上に腰を下ろした。

「カズ子さん」

「なあに」

「今夜来る予定のパートナーさんて、旦那さんですか?」

痛いところをつかれた。

「そうよ。でも今夜は都合が悪いみたい。仕事かなあ、既読もつかないの」

「そうなんですか。実は愛子ちゃん、連日外泊だとお母さんがうるさいから今日はやめておくってLINEが来ました」

ちょっとホッとした。

あんな声を聞かされたら、今夜も眠れなくなるところだった。

「変な2週間でしたね。こんな歳の差で、共同生活って。ほんとカズ子さんがお母さんみたいだった」

なんてことのない世間話。

ただその場所は私の部屋。

「お母さん、って言ってももう怒らないんですね」

「もういいわよ、お母さんで」

私は自分の体が、ほんの少し緊張しているのに気がついた。

相手は23歳も年下の男の子なのに。

そんな私の気持ちを見透かしたように、彼が耳元で囁いた。

「一度だけ、抱きしめても、いいですか」

そう言われ、ようやく彼と目が合った。

「いいわよ」

胸の奥で、何かが静かにほどけた。

私はゆっくり頷いた。

彼の腕が、その居場所を探すみたいに背中に回る。

私は堪えきれず

「ねえ、ただハグするだけ?」

返事はなかった。

私はもう我慢できなくなった。

「責任とってよ」

私がそう言い終わらないうちに、彼の唇がふれた。

一度きりの、大人の過ちと、大人の選択。

時間は短かったけど、若くて激しかった。

終わったあと、すぐに彼は

「ごめんなさい、ぼく、自分の枕じゃないと寝られないんです」

そう言い訳して部屋に帰っていった。

事後の静寂を破るチャイム。まさかの「全員集合」

彼が自分の部屋に戻ると同時にチャイムが鳴った。

こんな夜中に?

夫のタケシだった。

「ごめんごめん、残業でLINE見てなかったんだ。あわてて飛んできたよ」

そしてその5分後、またチャイムが鳴った。

今度は愛子ちゃんだった。

少し大きな旅行鞄を持っていた。

「ママもパパもうるさいから家出してきちゃった。今夜から一緒にここに住むね」

急に賑やかな夜になった。

気まずすぎる朝食会。そして隣室への引越し

翌朝。

四人そろっての朝食は、なんだか妙に照れ臭かった。

私と浩二君は、お互い目を合わせなかった。

「昨夜はよく眠れたでしょ?」

私が笑いながらそう言うと、愛子ちゃんは

「でも昨夜は何もしてないんです。彼ったらお疲れだったみたいで」

ちょっと不満そうだった。

「一昨日はりきりすぎたから。2日続けては無理だよ」

浩二君は必死にそう言い訳していた。

「若いんだから二夜連続ぐらいどうってことないだろ」

事情を知らないタケシが追い打ちをかけるように言った。

「そ、そういう和子さんたちはどうなんですか?もう仲直りしたんですよね?離婚も取り消すんですよね」

浩二君はあわてて話題を逸らした。

私は少しだけ間を置いて

「離婚は取りやめ。でもここが気に入ったからここに住みたい。隣の部屋が空いたらまた二人で暮らすことにしたの」

そう言ってから気がついた。

「隣の部屋が空いたら、どちらがこの部屋を使って、どちらが隣に引っ越すんですか?」

「そういえばまだ決めていなかった」

そしてどちらが隣の五〇一号室に引っ越すか、ジャンケンの結果、私が隣の部屋に引っ越すことになった。

「無期限守秘義務」お隣同士の新しい距離感

食後、片づけをしていると、不動産屋さんから電話が入った。

内容は朗報だった。

「隣の部屋、予定より早く空くことになりました。明日には鍵をお渡しできます」

4人から歓声が上がった。

喜びながらチラッと浩二君の方を見た。

この日、初めて浩二君と目があった。

翌日。

私は隣の部屋の鍵を受け取り、武史と一緒に荷物を運んだ。

洗濯機と冷蔵庫には手間取ったが、浩二君も手伝ってくれたおかげで、引っ越しは1時間で終わった。

昨日まで共同生活をしていた部屋のリビングには、ホワイトボードが残ったままだった。

「そういえば連絡用のホワイトボード、最初だけでほとんど使ってませんでしたね」

「“無期限守秘義務”って書いておくわ」

“歳の差同居”は終わった。

お隣同士の“歳の差ご近所”はこれからだ。

(完)

Youtubeで朗読動画、配信中

https://youtu.be/7YD7XNFApfk

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